猫腎不全

医師や専門家が深く詳しく解説します

猫腎不全

医師や専門家が深く詳しく解説します

猫の腎不全 についての原因、症状、治療法、気を付ける事とは?

公開日
更新日

 
執筆:碧井 香 (獣医師・獣医学博士)
 
 
猫の腎不全についてご存知ですか?飼い主さんが症状を見て“不全だ”と気づくことは困難です。具合が悪そうなので病院にきて、診てもらったら腎不全と診断されたというケースがほとんどでしょう。
しっかりと獣医師と連携をとって、治療をしていくことが重要です。この記事では、 猫の腎不全 について説明していきます。
 
 

猫の腎不全 とは

猫の腎臓はおなかの中にあると思われがちですが、背中側の両側に1つずつ存在します。
腎臓は血液をろ過して尿を作る役割をしています。細かく見ると腎臓の中には細い血管が集まった糸球体と呼ばれるものがあり、これがろ過装置になっています。
糸球体からろ過された尿は尿細管という管を通りますが、その時に再吸収という作業が行われます。糸球体で体に必要なものまでろ過されてしまったものをもう一度吸収したり、体の水分量を調節するために水分の吸収量を調節したりするのが再吸収の役割です。このようにして尿を濃縮していきます。
 
こうして出来上がった尿は膀胱につながる尿管を通り、少しずつ膀胱へ移行していきます。膀胱にたまった尿は外部へつながる尿道を通り、尿道口から外部へ排泄されます。オスの猫の場合には膀胱を出ると前立腺の中を通り、陰茎部を通り抜けるので、その道筋(尿道)が長いのですが、メスの猫の場合には太く短いのが特徴です。
猫が腎不全になると、老廃物をうまくろ過できないので、尿中への排泄が少なく、あるいは全くできなくなります。そのことにより、排泄されるはずの老廃物(毒素)が体の中に溜まってしまい(尿毒症)、様々な症状が生じます。
※犬の尿に関わる疾患については、「犬血尿」をご覧ください・
 
 

猫の腎不全 の原因とは

猫の腎不全には、急性と慢性があります。急性の場合にはさらに腎前性、腎性、腎後性に分けられます。
 
 

急性腎不全の場合

腎前性腎不全は腎臓の前に原因があるものを言います。腎臓に流れる血液量が少なくなることによって尿の量が少なくなる病態で、脱水、出血、ショック、心臓病などがこれにあたります。
 
腎性腎不全は腎臓自体の病態が原因になります。虚血(ろ過するための血液ではなく、腎臓自体に栄養を送り腎臓機能を維持するための血液が少なくなること。腎臓自体に血液が行かないと腎臓が機能しないので、ろ過も行われなくなります。)や腎毒性物質による腎障害、免疫介在性疾患、感染症、高カルシウム血症など、様々な原因があります。
虚血は脱水、出血、ショック、高体温、低体温、火傷、血栓などが原因と考えられます。
脱水、出血すると生命維持のため心臓や脳に多くの血液が送られ、結果として、腎臓に供給される血液量がへってしまいます。また血栓が生じると、血管が詰まって腎臓まで血液が届きません。血液が供給されない状態が続くと、腎臓の機能が失われてしまいます。
 
免疫介在性疾患は糸球体腎炎、全身性エリテマトーデスなど、感染症は腎盂腎炎、レプトスピラ感染症などの原因が考えられます。
 
腎後性腎不全は尿管、膀胱、尿道などに閉塞または濾出があり、尿が体外に排出されないことが原因となります。
 
 

慢性腎不全の場合

慢性腎不全は徐々に腎臓機能が低下していくもので、腎臓自体の疾患や先天性、遺伝性、腫瘍、高カルシウム血症、低カリウム血症などが原因となります。急性腎不全が慢性に移行する場合もあります。
 
 

猫の腎不全 の症状とは

急性腎不全の場合、猫に元気がなく、食欲が減退し、尿量が著しく減るか、全く出なくなります。嘔吐や下痢が見られる場合もあります。原因が多岐にわたるので、それぞれの原因によって異なった症状が見られます。
診断は血液検査で腎機能の異常が検出し、まずそこから腎前性、腎性、腎後性かを探っていきます。尿検査やレントゲン、エコーなどで特定します。
 
慢性腎不全の場合、左右あわせて腎臓の機能が25%以下になって初めて症状が出るといわれています。代表的な症状としては、多尿になります。また、腎臓の尿を作る以外の機能の低下も見られます。赤血球を作るためのホルモンを作っているので、貧血を引き起こします。また、再吸収機能の低下により電解質(ナトリウム、カリウム、リンなど)の調節がうまく行かず異常をきたしたり、血圧調節が出来なくなり高血圧になったりします。尿毒症を併発すると元気がなくなり、食欲不振、嘔吐、下痢、便秘、尿臭のする息、体重減少、貧血、不整脈、けいれん、昏睡など様々な症状が表れます。
※犬の便、嘔吐に関わる疾患については、「犬が下痢!? その時の対処法は?」 「犬が血便!?」 「犬が吐く!」をご参考にしてください。
 
 

猫の腎不全 の治療法とは

腎前性腎不全の場合にはその原因を除去することで回復します。脱水には補液、出血には止血や輸血、ショックには抗ショック療法、心臓病にはそれに対応した治療を行います。
腎性腎不全の場合はそれぞれの原因に対して治療を行っていきます。虚血の場合、補液(脱水)、止血、輸血(出血)、抗ショック療法(ショック)、温めたり冷やしたり、体温が正常になるように処置(高体温、低体温)をします。やけどや血栓の塞栓など状態に合わせて治療を行います。
腎毒性のある薬物投与の中止、催吐処置、胃洗浄、毒物吸着剤投与、輸液により毒性物質の希釈などが行われます。感染症には抗生物質の投与を行います。その他に原因の疾患がある場合にはその疾患の治療を行います。
 
腎後性では尿を体外へ排出させます。つまっている尿道結石の除去など処置が行われることもあります。原因が除去されれば、元通り元気になる可能性があります。
また、各々の症状に対しての対症療法が行われます。食欲不振、嘔吐、下痢などの消化器症状に対して胃粘膜保護剤や制酸剤の投与などが行われます。それでも改善が見られない場合には透析が獣医療の分野では透析はまだまだ一般的ではありません。
腎臓は一度機能が失われた部分は元には戻りません。通常は腎臓の3分の1が機能しており、それ以外は休んでいますが、腎不全で壊れてしまった部分が生じると休んでいた部分が活動し始めます。ですので、腎性の腎不全の場合には元通りになる確率は低く、慢性腎不全に移行していきます。
慢性になると、症状が徐々に進んでいくので、症状の緩和のため腎臓の負担を軽くする治療が行われます。食餌療法に加え、各々の症状に対しての対症療法が行われます。
 
 

猫の腎不全治療に用いられる薬とは

 
猫の腎不全の治療で用いられる薬について留意すべき点について以下に説明します。
 
●慢性腎不全の場合
急性腎不全と違うところは、腎臓の機能が今よりいい状態に回復することはなく病状が徐々に悪化して行くことです。腎機能がどの程度失われているかによって治療方針が異なってきます。病状によって大きく第1期から第4期に分かれます。
 
第1期
高血圧、浮腫に対しての薬物療法。原因により抗凝固・血小板剤を用います。
 
第2期
高血圧・浮腫に降圧剤・利尿剤を用い、食餌は減塩し、食餌療法を行います。腎性腎不全ではビタミンやカルシウムの投与が必要です。高リン血症に水酸化アルミニウム投与、栄養不足に対して蛋白同化ホルモン(蛋白合成促進、造血刺激)、細菌感染に対して抗菌剤などが投与されます。
 
第3期
輸液、利尿薬投与を行います。リン結合剤や活性型ビタミンD剤を投与し、尿生成が改善されれば透析に移ります。
 
第4期:尿毒症
病態に応じた薬物療法を行います。透析が必要です。
病態は著しい尿量の低下、元気・食欲の著しい低下、高血圧・浮腫により、肺水腫や動悸、心拡張、不整脈、著しい高窒素血症により嘔吐、口内炎、胃腸潰瘍、下痢、血便。皮膚病変、昏睡、体温低下など。尿毒症の症状としては痴呆、傾眠、意識障害、振せん、痙攣などの神経症状、眼の症状、糖代謝異常、高脂血症などがあります。状況に応じて優先されるべき治療から行います。

 
●猫の腎不全治療で用いられる薬の成分
腎不全の治療に用いられる薬の成分については以下のようなものがあります。
 
補液:脱水に対して水分補給のために行われるので、成分は体液に近い液体が中心になります。電解質の調節が出来なくなる(ナトリウム、カリウム、リンなど)ので状態により、どの輸液製剤を用いるかが決まります。
カリウム製剤:グルコン酸カリウムなど
カリウム保持性利尿薬:スピロノラクトン、トリアムテレンなど
ループ利尿薬:フロセミドなど
浸透圧利尿薬:マニトール、高張ブドウ糖など
アルカリ化薬:重曹(炭酸水素ナトリウム)
活性型ビタミンD剤:カルシトリオール
ビタミン剤:各種ビタミン
カルシウム製剤:塩化カルシウム、グルコン酸カルシウム、乳酸カルシウムなど
高リン血症治療:水酸化アルミニウム、沈降炭酸カルシウムなど
腎臓への血流を増やす薬物:ドパミン
胃酸の分泌を抑える:H2ブロッカー(ラニチジン、シメチジンなど)、メトクロプラミド、オメプラゾールなど
活性炭:球形吸着炭
降圧剤:アンジオテンシン変換酵素阻害薬(カプトプリル)など
貧血:鉄剤
 
その他、細菌感染に対して抗菌剤、炎症に対してステロイド剤、血液凝固促進に対して抗凝固剤、抗血小板剤、栄養不足に対して蛋白同化ホルモン(蛋白合成促進、造血刺激)などが用いられたり、続発的に発生する症状に対する対症療法が行われます。

 
●猫の腎不全治療で用いられる薬の薬効
腎不全の治療に用いられる薬の薬効については以下となっています。
補液:脱水、電解質代謝、酸—塩基平衡の改善
カリウム製剤:低カリウム血症改善。
カリウム保持性利尿薬:低カリウム血症改善、利尿。
ループ利尿薬:利尿。
浸透圧利尿薬:高カリウム血症改善、利尿。
アルカリ化薬:代謝性アシドーシス改善。高カリウム血症改善。
活性型ビタミンD剤:慢性腎不全の続発性上皮小体機能亢進症の改善。高リン血症改善。
ビタミン剤:ビタミン不足解消。
カルシウム製剤:低カルシウム血症改善。
リン抑制:高リン血症改善。
ドパミン:腎臓への血流を増やす
H2ブロッカー(ラニチジン、シメチジンなど)、メトクロプラミド、オメプラゾールなど:胃酸の分泌を抑える。
活性炭:;腎臓に負担をかける物質を吸収しないように吸着し、排泄する。慢性腎不全における尿毒症症状の発現抑制。
アンジオテンシン変換酵素阻害薬:血管拡張薬、降圧剤。
鉄剤:貧血改善。
 
●猫の腎不全治療で用いられる薬の投薬方法(点滴、服用、その他)
腎不全の治療に用いられる薬の投薬方法としては以下のように多岐にわたります。
補液:点滴。皮下補液(皮膚の下に比較的多量の輸液剤を短時間に注射すること)。
カリウム製剤:服用
カリウム保持性利尿薬:服用
ループ利尿薬:服用、筋肉注射、静脈注射
浸透圧利尿薬:点滴
アルカリ化薬:服用、ブドウ糖液に配合して点滴で用いることもある。
活性型ビタミンD剤:服用
ビタミン剤:服用
カルシウム製剤:静脈注射、点滴配合、筋肉注射、服用
高リン血症治療:服用
ドパミン:点滴配合
胃酸の分泌を抑える:服用
活性炭:服用
降圧剤:服用
鉄剤:服用、筋肉注射
 
●猫の腎不全治療で用いられる薬の副作用などの注意事項
腎不全の治療に用いられる薬の副作用や注意事項を以下のようにまとめましたので、ご参考にしてください。
 
グルコン酸カリウム:副作用:大量投与で心臓伝導障害が起こる可能性がある。注意:重篤な腎障害、高カリウム血症、消化管通過障害がある場合は使用禁忌。
 
スピロノラクトン:副作用:高K血症、低Na血症、代謝性アシドーシスなどの電解質異常、急性腎不全が起こることがある。注意:無尿、急性腎不全、高K血症、本剤の過敏症の既往症がある場合は使用禁忌。
 
トリアムテレン:副作用:発疹などの過敏症状、光線過敏症が起こることがある。注意:無尿、急性腎不全、高K血症、腎結石がある場合、または既往歴がある場合は使用禁忌。
 
ループ利尿薬:注意:塩類過剰や水分過剰のような浸透圧異常のある個体でも等張に近い尿を排泄させるので、異常を悪化させる可能性がある。
 
浸透圧利尿薬:注意:過剰投与で退役浸透圧が異常に高くなり、死亡事故の可能性がある。
 
炭酸水素ナトリウム:副作用:便秘、下痢が起こることがある。注意:反復投与するとアルカローシスを起こす可能性が高くなる。
 
カルシトリオール:副作用:掻痒感、BUN(尿素窒素)上昇、悪心が起こることがある。注意:高Ca血症、ビタミンD中毒症状がある場合は使用禁忌。
 
ビタミン剤:副作用:胃不快感、悪心、嘔吐、下痢などが現れることがある。
 
塩化カルシウム:副作用:高カルシウム血症、結石症が起こることがある。注意:高カルシウム血症、腎結石、重篤な腎不全は使用禁忌。
 
グルコン酸カルシウム:副作用:高カルシウム血症、結石症が起こることがある。注意:高カルシウム血症、腎結石、重篤な腎不全は使用禁忌。
 
乳酸カルシウム:注意:高カルシウム血症、腎結石、重篤な腎不全がある場合は使用禁忌。
 
水酸化アルミニウム:副作用:便秘、下痢が起こることがある。注意:透析療法を受けている時は使用禁忌。
 
沈降炭酸カルシウム:副作用:便秘が起こることがある。注意:甲状腺機能低下症または副甲状腺機能亢進症の場合は使用禁忌。
 
ラニチジン:副作用:ショック、アナフィラキシー様症状、血小板減少、無顆粒球症、汎血球減少、再生不良性貧血、肝機能障害、黄疸、意識障害など様々な病態が起こることがある。注意:本剤に過敏症の既往歴がある場合は使用禁忌。腎機能障害、肝機能障害、薬物アレルギーがある場合は注意が必要。
 
メトクロプラミド:副作用:ショック、呼吸困難、頭浮腫、蕁麻疹などのアナフィラキシー様症状、悪性症候群、意識障害、痙攣などを起こすことがある。注意:本剤に対する過敏症の既往歴、消化管に出血や穿孔、器質的閉塞が見られ宇場合、褐色細胞腫の疑いがある場合は使用禁忌。
 
シメチジン:副作用:ショック、アナフィラキシー様症状、再生不良性貧血、汎血球減少症、無顆粒球症、血小板減少、間質性自然、急性腎不全など様々な病態がおこることがある。腎障害がある場合には、血中濃度が続くので注意が必要。腎障害、肝障害、シメチジンに過敏症の既往歴がある場合には使用禁忌。
 
オメプラゾール:副作用:ショック、アナフィラキシー様症状、血管浮腫、気管支痙攣、溶血性貧血、急性肝不全、黄疸、視力低下、低ナトリウム血症など様々な病態が起こることがある。注意:本剤に過敏症がある場合は使用禁忌。
 
球形吸着炭:副作用:便秘、食欲不振、悪心、嘔吐、腹部膨満感、下痢が起こることがある。注意:消化管に通過障害がある場合は使用禁忌。
 
アンジオテンシン変換酵素阻害薬:副作応:急性腎不全、狭心症、心筋梗塞、うっ血性心不全が起こることがある。
 
鉄剤:副作用:嘔吐、下痢など。

 
 

普段の生活での留意点とは

急性腎不全にならないために、猫が極度の脱水に陥らないように常に水分補給に気を付けて下さい。
また、腎毒性のある薬剤があります。他の病気で処方された薬剤が獣医師から腎毒性を示す可能性があると説明があった場合、投薬後様子を見るようにしてください。
猫の体調に変化があったらすぐに病院に行って、診てもらいましょう。食餌に関しては、味の濃いものは腎臓に負担をかけます。普段から低たんぱく、薄味(特に塩分)を心がけると良いでしょう。
 
猫が慢性腎不全の場合には、食餌療法として良質な低たんぱくの食餌が望まれます。ナトリウムやリンなどを制限する必要もあります。腎臓病用の特別食が市販されていますので、それで管理するのがいいでしょう。
猫が高齢の場合には、自宅での治療の方がいいかもしれません。自宅でも可能な治療方法が選択できるかどうか獣医師とよく相談してみてください。
 
 

まとめ

ここまで説明した内容について以下のようにポイントを記載しますので、ご参考にしてください。
 
・猫が腎不全にかかっていることに飼い主が気づくのは困難。
・腎不全になると、腎臓の機能が低下をし、老廃物が上手く排泄できず尿毒症や様々な症状を引き起こす。
・猫の腎不全には、急性と慢性があり、急性には腎前性、腎性、腎後性の3つの分類がある。
・腎不全の症状は、元気なく、食欲減退し、尿量が減るかゼロになる。嘔吐、下痢等を生じる場合もあり、腎不全の原因によって多様な症状が引き起こされる。
・治療法は、夫々の原因によって異なる。
・普段の生活の中で腎不全予防の為に出来る事としては、水分補給を充分に行う事、低たんぱくで薄味の食事にすることなどがある。
 
 
<執筆者プロフィール>
碧井 香 (あおい こう)
獣医師・獣医学博士。
現在はフリーライターなど多岐に活動。
麻布大学獣医学部卒業 獣医師免許取得、某アニマルクリニックに勤務しながら、同大学院にて獣医学博士号取得、独立行政法人某研究所勤務、アメリカの研究機関勤務を経て今に至る。

※なお記事中の語句に張られたリンクをクリックすると、当該語句について詳しく説明した当サイト内もしくは外部サイトの記事へ移動しますので、ご活用いただければ幸いです。